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ライプチヒ バッハの嘆き今なお

2013年07月18日

 あの世で作曲家バッハも思わず膝を打ったのではないだろうか-。今年もドイツ東部のライプチヒ市で6月に開かれた「バッハ音楽祭」。旧市街地に立つ聖トーマス教会での開幕コンサートに先立ち、聖トーマス教会合唱団の少年団員は聴衆にこう訴えた。

 「近ごろとても不安です。政治家が文化にお金を払いたがらず、市の文化予算は削られる一方だからです。このままではバッハの伝統を保つのは難しいのです」

 顔立ちに幼さが残る少年の思い切ったスピーチに、聴衆は数分に及ぶ長い温かな拍手で共感を示した。

 拍手がやむと、先にあいさつを終えていた市長が再登壇し「十分な文化予算を支出している」と反論。しかし一部の聴衆はブーイングで応じ、彼の面目は丸つぶれとなった。

 面白いことにバッハ自身も同じような訴えをしていた。バッハ資料財団によると、合唱団の音楽監督だったバッハは市に宛てた文書で、運営費の不足から欠員の補充もままならず「演奏レベルを維持できない」と予算増を求めたという。

 バッハの時代も今も、訴えの根底には芸術に無理解な行政への不信感があるようだ。日本でも経済が失速した過去20年間、自治体の文化予算は減り続けている。ことは洋の東西を問わない。(宮本隆彦)