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ベロオリゾンテ デモ隊と祝宴サンバ

2013年07月25日

 年齢を聞かれるまで、自分の誕生日を忘れていた。「そういえば、きょうで45歳になった」。その一言で場の雰囲気が一気に盛り上がった。

 サッカーのコンフェデレーションズカップに出場する日本代表を追って、ブラジルのベロオリゾンテを訪れた日の夜だった。街では、同国で来年開催されるワールドカップ(W杯)などへの抗議デモが行われていた。

 たまたまホテルの前で知り合ったデモグループの若い男女数人と路上の飲食店へ。「W杯はいらない。スタジアムを新設するぐらいなら、病院や学校をつくるべきだ」。ビールグラスを傾けながら、彼らの訴えを聞いた。

 そんな熱弁が続いた後だから、「バースデー」はことさら驚きを持って伝わった。彼らの号令で、店は突如、他の客を巻き込んでの「祝宴」に一変した。

 人々が次々に集まり熱い抱擁とキスの嵐。隣のテーブルの男性3人は、どこからか楽器を持ってきて、本場のサンバを演奏してくれた。すぐさま踊り始めた女性客の手ほどきで、ステップを刻むと大いに受けた。おそらく、ペンギンがじだんだを踏むようにしか映らなかっただろう。

 子供の時と違い、誕生日を無邪気に喜ぶ年齢でもない。むしろ、なるべく遠ざけておきたい日だったが、年を取るのも悪くないと思えた。(小杉敏之)