2013年09月03日
一瞬、目を疑った。
米カリフォルニア州バークリー市内を車で走っていた時のこと。繁華街のビルの一角に、風呂マークが書かれたのれんがぶら下がっていた。
「銭湯があった!」
同乗していた家族にそう叫ぶと、車をUターンしてもらい、その場所に戻った。
のれんには、英語で「HOT TUB(熱い風呂)」と書いてあるではないか。
米国の浴槽は浅い。日本を離れて2年が経過し、深い風呂にゆったりつかるぜいたくさを懐かしく思うようになった。
サンフランシスコから30分離れたこの地には、名門カリフォルニア大バークリー校もある。車道の中央分離帯で、音楽を聴きながら、ピザを食べる学生らの姿もあり、街中は開放的な雰囲気が満ちあふれていた。この街なら銭湯があっても不思議じゃない。
のれんをくぐると、中東系の男性が店番をしていた。入湯料は1時間1人分約20ドル(約2000円)。
案内されたのは、個室。びしゃびしゃにぬれたコンクリートの床。隅には白いシーツでくるまれたベッドが、その横にジェットバスがあった。
のれんを見つけた時の高揚感はとっくに消え、いそいそと浴槽に入った。壁のかすれた絵は、ナイアガラの滝らしいものだった。 (長田弘己)