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ウィンブルドン 沈黙が伝えた緊迫感

2013年09月18日

 最高の素材に、余計な修飾も演出もいらない。映像は試合を伝えていたが、流れる音声のほとんどは、審判の声と観客の歓声、選手の息遣いだった。

 先月、ロンドン郊外のウィンブルドンで行われたテニスの全英オープン。男子シングルス決勝の取材は、聖地「センターコート」の記者席数が足りず、隣接のメディアセンター内でテレビ観戦した。

 最も白熱したのは、地元期待のマリー選手が、英国勢として77年ぶりの優勝を決めた第3セット。1時間以上の熱戦となり、最終ゲームでは4度のデュースがめぐった。

 ところが英BBC放送の生中継は、マリー選手の最初のマッチポイント以降、解説のマッケンロー氏が沈黙。実況アナウンサーも時々短いコメントを入れるだけになった。

 米国で同じ中継を見ていたゴルフ解説者の友人が後日、これを話題に。「大舞台になるほど、今回のような沈黙は有効だね」。確かに場の緊迫感が、より際立って伝わるように感じた。

 日本のテレビ局はどうだったか。聞けば、アナウンサーが「ウィンブルドン・センターコートは、異様な雰囲気に包まれています」と盛んに口にしていたという。話すのが商売とはいえ、ややおせっかいか。BBCの中継は「説明するだけやぼ」とでも言いたげだった。 (小杉敏之)