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キャンベルタウン 蒸留の街に爆撃の跡

2013年10月22日

 かつてスコッチウイスキーの最大の生産地だった英キャンベルタウンを訪ねた。

 スコットランド西岸の都市グラスゴーから、20人乗り飛行機で45分。キンタイア半島の入り江に面した静かな港町だ。

 泊まったホテルのロビーに1枚の写真が飾られていた。1940年11月に飛来したドイツ軍の爆撃で半壊した当時のホテルだと説明がある。5人が犠牲になったという。

 こんな辺ぴな町にまで爆撃があったとは。ロンドンから北北東に約500キロ離れ、人口は約6000人。周囲には牧場や丘陵しかない。

 地元の歴史家も、詳しい事情は知らないという。ネットで調べてみると、祖母があやうく難を逃れたという男性が英BBC放送に語っているのを見つけた。それによると、飛来したのは1機で、スコットランドで最も古い映画館にも機銃掃射を浴びせたという。検閲下にあった新聞は、攻撃を全く報じなかったそうだ。

 近くの産地では蒸留所が爆撃され、流れ出したウイスキーで川が琥珀(こはく)色に染まったという。19世紀末には30以上の蒸留所があったというキャンベルタウンには、往時の伝統を守る蒸留所がわずかに残っている。ピートくさいモルトを味わいながら、今となっては知るよしもない戦時の風景を思い浮かべた。 (石川保典)