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大田 劣等感が生んだ124勝

2013年10月29日

 「打者はイチロー、投手なら朴賛浩(パクチャンホ)」

 韓国中部の大田(テジョン)市で、野球好きなタクシー運転手が自慢してきた。昨秋引退した朴氏は隣の公州(コンジュ)市出身。米大リーグでアジア人投手最高の通算124勝を挙げた。野茂英雄氏を一勝だけ上回る。

 最近出た彼の自伝や記事を読み、「劣等感が私を育てた」との言葉が印象に残った。

 韓国で同期らは大学入学時から黄金世代と呼ばれた。朴氏は違った。土曜日、同期の家に電話し、留守だと気分が良かった。「彼らはデート中なわけです」。朴氏は1人で大学に行き、練習した。

 渡米直後、「ニンニクくさい」とからかう同僚に飛び掛かった。監督に怒られたが、弁明しようにも英語を話せない。翌日から英文を1日1つ紙に書いて覚えた。米国人の体臭が出るようにと、チーズを食べまくった。

 ドジャース時代。メジャー復帰前夜、宿舎で向かいの野茂氏の部屋は夜、新人王決定を祝うパーティーが続いた。朴氏は翌日、先発したが再びマイナー落ち。以降、屈辱も味わいながら米国にとどまったのは「123を超えたかったから」。野茂氏の勝利数だ。

 朴氏は「私はいつも足りない男だ。自分の限界を超えてみようと努力してきただけ」と記した。イチロー選手同様、努力し続ける才能をもつのが天才なのだろう。 (辻渕智之)