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香港 家政婦日曜の楽しみ

2013年10月24日

 高層ビルが立ち並ぶ香港・セントラル(中環)は、無数のおしゃべりに満ちていた。その日は日曜日。大勢の女性が歩道や広場に段ボールを敷いて座り込み、弁当を分け合ったりトランプに興じたり。角をいくつ曲がっても道端の段ボールは途切れず、女性たちの数と声に圧倒された。

 何事かと話し掛けてみると、1人がくつろいだ笑顔で答えてくれた。「同じ故郷の人たちと話をするためにここにくる。日曜を楽しみに1週間過ごすの」。彼女たちは香港の家庭に住み込むフィリピン人やインドネシア人の家政婦。1週間で唯一の休みに家にいても自室は狭い。ぜいたくできるお金もない。そこで日曜は閑散とするオフィス街や公園に集まるという。

 香港では共働きの家庭が多く、家事や育児を家政婦に頼る。東南アジアを中心に外国人家政婦は約30万人にのぼり、平日に中環の金融機関で働くような香港人女性の社会進出を下支えする。

 中環を訪れた翌々日、香港紙では、雇い主から虐待を受けたと裁判に訴えたインドネシア人家政婦の記事が大きな扱いだった。記事によれば、家政婦は虐待の被害者になりやすい。虐待まで至らなくても、閉ざされた個人宅は気苦労の多い職場のはず。つかの間の解放感が、日曜日のおしゃべりを加速させるのだろう。 (中沢穣)