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サンクトペテルブルク 勝手に発車オーライ

2013年11月07日

 走り去るバスをぼうぜんと見送る。あまりに衝撃的だった。

 20カ国・地域(G20)首脳会合の取材で訪れたロシア・サンクトペテルブルクは、北京から約9時間のフライト。通関後、G20事務局スタッフを見つけた。国際線ロビーで偶然会った知人記者と2人、事務局手配のシャトルバスに乗る。大型バスに乗客2人。運転手のすぐ後ろに座り「こんなにスムーズなんて」とホッとひと息。でも、それは最悪の1日の始まりだった。

 次に国内線空港で停車。運転手はG20関係者を探すためバスを降り、私たちも外に出て談笑していた。すると突然バスが動く。叫びながら必死に乗降口のドアをたたくが、運転手は「仕事は運転だけ」というような横顔で一顧だにされず。あっという間の出来事だ。

 手には携帯電話だけ。パスポート、パソコン、財布が・・・。英語が堪能な事務局スタッフを探し回るが、見つからず。モスクワ支局の同僚に電話し、続くバスに乗り込む。

 巡回バスの座席に置いたままの貴重品。生きた心地がしない。到着したホテル前で待つこと3時間余り。あの運転手のバスが来た。慌てて飛び乗ると奇跡的に荷物を発見。乗客を確認もせずに発車した運転手は涼しい顔。「プラスチーチェ(すみません)」という言葉もなく、ただ無言だった。 (白石徹)