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フランクフルト 絶品すしも風評被害

2013年11月26日

 「福島原発の事故の後、ぱたりとお客さんが来なくなりましてね」。長野県出身のご主人(54)は「ばらちらし」をつくる手を休めずに続けた。「ドイツ人の常連さんに聞いたら『セシウムが怖いから日本食は食べたくない』って言うんです」

 ここはドイツ経済の中心フランクフルトの日本料理店。時間が早かったせいか、客はカウンターの私だけ。じっくり話を聞けた。

 東京電力福島第1原発の事故で大量の放射性セシウムが放出されたと報じられ、客の9割を占めるドイツ人の足が遠のいた。来店者数は半減。来てくれた客には「セシウム抜きで頼む」とからかわれた。ご主人は店の前をよけて歩く通行人を目撃したこともある。

 一時は閉店も覚悟した。半年ほどかかって客足は持ち直した。ただ最近も福島原発で続く汚染水漏れをドイツのメディアは大きく報じ、東京での五輪開催決定を疑問視した。

 チェルノブイリ原発事故で食品汚染を経験したドイツ人は、この手の問題に敏感。福島事故で高まった国民の不安をぬぐうため、原発活用派だったメルケル首相も「脱原発」に急転回したほど。実態と異なっていても「日本=危険」とのイメージは彼らの心に染みついている。この負の影響は計り知れない。久しぶりのすしはうまいのに、心は晴れなかった。 (宮本隆彦)