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カイロ まだまだ続く「戦後」

2013年11月28日

 戦場でイスラエル兵の遺体を見て驚いたのは、軍靴だったという。自分たちの硬い靴に比べ、軟らかく随分動きやすそうだった。

 1973年10月6日に火ぶたを切った第四次中東戦争から、40年。参加したエジプト軍の元兵士にカイロで話を聞くと「イスラエルの装備が良くても、私たちは精神力で勝った」と胸を張った。

 奇襲でイスラエル軍に打撃を与えたエジプト軍は、緒戦を優勢に展開。後に盛り返されたが、国民は誇りの日として受け止める。

 10月6日は祝日で、カイロは「10月6日市」や、「10月6日橋」まである。映画が生まれ、子供たちは授業で兵士の絵を描く。国民的英雄となったムバラク空軍司令官は、30年に渡り大統領の座を占めることになる。

 エジプト軍は、67年の第三次戦争では大敗していた。「国民には軍はあてにならないという雰囲気があったが、一変した」と元兵士。戦場から戻って駅で受けた、市民の大歓迎ぶりを忘れない。

 「いざという時、頼りになるのは軍」。爾来(じらい)、その意識が国民に深く根を張る。政情混乱の中で迎えた今年の10月6日は、街を覆う軍礼賛の雰囲気が例年以上に色濃かった。

 イスラム政権が1年で崩壊した今、再び軍出身の大統領待望論が広がる。この国の「戦後」は、まだまだ続くだろう。 (今村実)