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ウォール街 証券取引所の立会場

2013年11月29日

 投資のお金は時に激流となって、多くの人を翻弄(ほんろう)する。その中心地であるニューヨーク証券取引所の立会場を訪れた。

 世界の金融取引は電子化され、今やほとんどその動きを実感することは難しいと思っていた。ここが世界最大の証券取引所であることは知識では分かっていても、目の前をお金がナイアガラの滝のように流れ落ちていくわけではないからだ。

 立会場は思いのほか静かで、ゆっくりとした雰囲気。「株価は少し下がりましたが、落ち着いています」と広報担当者は言う。

 見渡すと、鮮やかな青色のベストを着た証券取次業者が大勢いる。彼らはパソコンをポチポチと操作しながら、仲間と談笑していた。これが「落ち着き」を感じる原因だ。

 株価が暴落するような緊迫した場面では、彼らが頭を抱えて深刻な表情で画面に見入る姿が報道される。そういう局面では声も次第に大きくなるだろうし、歩く速度も速足になるだろう。彼らの身体が発するあらゆる情報が、そのときの経済状況をリアルに伝えてくれると、確信した。

 東京や名古屋の証券取引所は、電子化を機に立会場を廃止した。効率化競争の逆を行くようだが、経済をもっと心に響くものにするために証取ができることは、立会場の復活ではないかと思った。 (斉場保伸)