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サンレミドプロバンス ゴッホ名作 生んだ村

2013年12月13日

 ユラユラというか、メラメラといおうか。あのフィンセント・ファン・ゴッホ独特の筆が、どこで、どんな状況で生まれたのか。それを知りたくて南フランスのアルル近郊・サンレミドプロバンスに向かった。アルルで自らの耳を切り落とした翌年から約1年間にわたって入院した精神病院がある場所だ。南仏の光に恵まれた、のどかなこの村で彼は名作を多数生み出した。

 「ここの景色をみていると、ゴッホが描いた絵のほうが自然に思えることがある。自然は本当はこうだと、彼の絵が再発見させてくれるのです」。そう話してくれたのは元芸術誌記者で「ゴッホ 花と光に愛された男」という著書がある女性ガイド、マリシャルロット・ブトンさん(68)。あの燃えるような筆が自然の一面を映しているという。

 ゴッホが入っていた病院で、現在、絵を使って患者を癒やすセラピーに取り組む医師ジャンマルク・ブロンさん(56)は「彼にとって絵画は精神の発作を避ける避雷針のようなものだったのでは」と話す。精神状態が興奮と低迷を行き来する中、ゴッホは両極の間の安定期に絵に打ち込んだのだと教えてくれた。

 田園地帯の中の精神病院で、ひたすら絵に打ち込む姿を想像する。あのうねる筆が創造の喜びと近づく発作の不安の象徴のようにも思える。(野村悦芳)