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ニューヨーク 今日だけは許される

2014年01月15日

 ニューヨークのなじみのレストランで昼ご飯を食べていたら、常連客の男性が顔を紅潮させてやってきた。頭には、野球帽。赤い字で「B」と書いてある。ボストンを本拠地とする米大リーグ、レッドソックスのものだ。「郊外でやっと見つけた」と言う。

 米国一を決めるワールドシリーズの真っ最中で、ニューヨークの地元チーム、ヤンキースの宿敵であるレッドソックスが、カージナルス相手に王手をかけているところだった。

 野球好きの米国人の、地元チームへの愛情は半端でない。ニューヨークで他球団のグッズを売ることはまずご法度だ。

 男性はヤンキース嫌い。「今ならかぶっても大丈夫でしょ」とつぶやいた。平時には勇気がいるのだ。

 昔、知人が、ニューヨークを本拠地とするチーム、メッツのTシャツを着て学校に出かけたら、教師に「本当?」と驚かれたとか。教室にはヤンキースのTシャツを着た子どもしかいなかった。

 さて、レッドソックスが優勝を決めた翌朝、近所の喫茶店に顔を出すと、店員が休憩中にキルトを縫っていた。布には「ボストン」の文字があった。店員は「今日だけは許される」とニヤリ。外の通りでも、少なくとも1人、「B」の野球帽の女性を発見した。(長田弘己)