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パリ 「ほっといて」重い言葉

2014年02月26日

 しばらくこの言葉は忘れない。「われわれのことはほっといてほしい」。少数民族ロマの男性。パリで活動する支援団体の一員でもある彼はそう言った。

 ここ数カ月、フランスでは移動生活をしているロマのキャンプ解体が相次ぐ。ロマへの内相の厳しい発言は人権団体から反発を浴びた。ギリシャでは、金髪の少女を育てていたロマに誘拐犯のレッテルが安易に貼られた。

 男性の口から「厳しい現実を知ってほしい」とか、「差別や偏見と戦いたい」といった美しい言葉を期待したのだが、違った。

 かつてロマはナチスの虐殺の標的にされた。経済や社会への不満をそらす狙いがあったといわれる。経済不安の今、男性は悪夢の再来を恐れていた。

 ロマといっても、移動生活をしている人々は決して多くない。大半は定住し普通に生活しているのに、なぜまた不満のはけ口にされなければならないのか。「ほっといて」の裏には、そんな思いがあった。

 パリ郊外。移動生活者のロマの男性にも話を聞いた。彼も不安を口にしたのだが、別の部分で彼の話に別の違和感があった。ギリシャなどで起きた深刻な出来事を正確には把握していないのだ。テレビもパソコンも「スマホ」も持たないからだろうと気付いた。またも、深く考え込まされた。 (野村悦芳)