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釜山 跳ね橋が伝える哀歓

2014年03月04日

 日本でも知られる曲「釜山港へ帰れ」を韓国・釜山で聴いた。元祖韓流スターといえる趙容弼(チョヨンピル)氏の公演。客は大半が40~50代の女性で、韓国で「歌王」と呼ばれる63歳の彼に黄色い声援を送り、跳びはねる。異様な熱気を楽しんだ。

 翌日、やはり熱気あふれる場所があった。釜山港にかかる影島(ヨンド)大橋で、日本統治期から名物だった跳ね橋の機能が最近、47年ぶりに復活したのだ。背の高い船が往来できるよう橋げたが跳ね開く正午、周囲は見物客で埋まっていた。

 かつては日本からの引き揚げ者を、朝鮮戦争時は釜山に逃れる人を乗せた船が通った。近くの高台にある「四十階段」では避難民が着の身着のままで階段に座り、橋が跳ね上がるのを眺めたという。入港する船が生き別れた家族を乗せてくるのを待ち続けたのだ。

 橋のたもとで屋台を出す韓明娥(ハンミョンア)さん(72)も北朝鮮の咸興(ハムフン)から釜山に逃れた。「それきり、帰れなくなったねえ」とつぶやいた。

 海面に対して平行だった橋げたが、垂直近くまで上がると、拍手が沸き起こった。スピーカーからは「釜山港へ帰れ」が流れる。近くにいた白髪の女性は「ああ、上がった。カモメが飛んでいく・・・」と言い、涙を浮かべていた。懐かしい家族の顔が浮かんだのか。港町の哀歓に胸が熱くなった。(辻渕智之)