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サルバドル 奴隷貿易を伝える街

2014年03月13日

 「ネルソン・マンデラ氏死去」の報を耳にしたのは、出張先のブラジル東部サルバドルでだった。

 マンデラ氏は南アフリカでアパルトヘイト(人種隔離)の撤廃運動を指導し、ノーベル平和賞を受賞した同国元大統領。白人による黒人への非人間的な差別に対する解放闘争は、遠く離れたサルバドルと、全くの無縁とは言えなかった。

 大西洋を望むブラジル屈指の湾港都市は、砂糖産業で栄えたかつての首都。1570年代からサトウキビ畑の労働力確保のため、黒人が奴隷としてアフリカから連れてこられた。現在、人口300万人のうち8割が黒人とされるのは、その「奴隷貿易」の歴史ゆえだ。

 世界遺産にも登録される旧市街を歩いた。黒人が持ち込んだ音楽、踊り、衣装、料理といったアフリカの文化が、数世紀の時を経てブレンドされ、異郷的な雰囲気が漂う。

 ブラジルの代表的バロック建築の教会は美観で、周囲の建物の外壁もカラフル。街のどこを切り取っても絵になる。夢中でカメラのシャッターを切った。

 いまは「黒人のローマ」とも呼ばれる平和な古都で、マンデラ氏の死に重ねて思う。この地に流れた奴隷の汗と血と涙を。訪れた者を魅了する美しい街の光景は、名もなき黒人たちの犠牲の上に成り立っている。 (小杉敏之)