2014年03月31日
墓石はなく、いずれも故人を示す小さなプレートが地面にあるだけ。ブラジル中部サンパウロに出張中、郊外のモルンビー墓地を訪れた。広大な敷地に無数のプレートが点在するが、英雄の墓はすぐに見つかった。目印のように同国の国旗が立つそこは、今も献花が絶えない。この下にアイルトン・セナが眠っている。
自動車レースの最高峰F1で「天才」の名をほしいままにした伝説的ドライバー。ワールドチャンピオンに3度輝き、日本では「音速の貴公子」とも呼ばれた。生前の勇姿をサーキットで見ることはできなかったが、1980年代後半からのマクラーレン時代は圧巻の速さだった。
すきあらば前へ。果敢な走行は時に「危険」と批判されたが、それも魅力。まぶしすぎるがゆえ、94年サンマリノ・グランプリでの事故死は衝撃だった。
近年は経済発展著しいブラジルだが、当時は深刻なインフレと累積債務に苦しんだ。地元の中年女性は「物の値段が、同じ日の朝と晩で違ったほど。国民にとって、彼が唯一の希望だった」と振り返る。故郷に眠るセナへの感謝と愛着は、今も色あせていない。 (小杉敏之)