2014年05月16日
駐車スペースを探していた。米北西部ワシントン州シアトル入りした夜のこと。土地勘がなく、市内中心部をぐるぐると回り、ようやく闇に光る「P(パーキング)」のサインを見つけた。入ると、ニット帽をかぶった中年男性が立ちはだかった。
「ここは1時間20ドルもするから、利用しないほうがいい。路上に止めなさい。この時間は無料だ」。早口で言うと、付いてこいと手を振った。さまざまな疑問が頭をよぎったが、追っかけた。
男性は駐車場の前の通りを指さしている。交通標識を見ると「駐車禁止」。「この時間に警察が切符を切ったのは見たことない。絶対に大丈夫。そうだよね」。通りでたばこを吸っていた初老の女性がうなずいていた。男性が続けた。「じゃあ、チップをくれ。これが俺の仕事」。そこには駐車しなかった。
正確な数字は分からないが、ホームレスが多い街として知られるシアトル。通りを歩くと、物売りや楽器演奏で暮らす路上生活者に何度も声を掛けられた。
あの手この手の口上は、かなり磨きがかかっていた。
(長田弘己)