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バンコク 強者どもの夢のあと

2014年05月30日

 ムエタイの聖地として知られた、バンコクのルンピニ・スタジアムが58年の歴史に幕を下ろしてから、1カ月ほどたった3月中旬。入り口に面した道路に立つと、観客席を取り壊す作業の真っ最中で、つち音が大音響をとどろかせていた。

 ごみごみとしたフードコートなどはお世辞にもきれいとはいえないが、独特の熱気は外国人観光客にも人気だった。最後の試合があった日に取材で通路を歩いた際、昔の川崎球場を思い出した。

 周囲にはボクサートランクスを売る店など10店があった。肖像画の額縁を売るブゥンシャラウンさん(36)は「試合に勝ってご機嫌の選手が肖像画を持ってきて、額縁を注文しに来たこともあった」と回想。「観客も興奮していて、試合がある日は熱気に満ちていた。目をぎらつかせながら、がむしゃらに頑張っていた若者がいなくなったのは寂しい」。この店も3月末に移転し、全ての店が姿を消すという話だった。

 ほこりがもうもうと立ち、その向こうには、骨組みだけのリングがかすんで見えた。年老いた男性がじっとそのリングに見入っていた。(伊東誠)