2014年06月02日
穏やかな午後のソウルの街に突然サイレンが響いた。大通りを走るバスや車が全てエンジンを切って待機する。いつもは騒がしい街が静けさに包まれ、時間が止まったような光景が約20分間続いた。
北朝鮮の侵攻や自然災害を想定し、韓国全土で年5回ほど行う「民防」と呼ばれる訓練だ。本や映画で存在は知っていたが、実際に車が止まるところを見るのは初めて。いつ攻めてくるか分からない北朝鮮に備える、韓国の厳しい現実を感じた。
それでも、北朝鮮との対峙(たいじ)が60年以上続き、人々の緊張感は弱まっているようだ。バスに20分間閉じ込められたオフィスの助手は「最近は『時間の無駄』とか『何で今さら訓練するの?』とぼやく人も多いんですよ」と明かした。
バス内では本来流すべきラジオの放送がなく、乗客はスマートフォンをいじって時間をつぶしていたという。オフィスから眺めていても、地下街に避難するはずの歩行者が歩道に何人もいる姿を見かけた。
これが北朝鮮の訓練なら、人々は処罰を恐れて一心に取り組むのだろう。韓国人の緩みは、国が健全な証しなのかもしれない。(島崎諭生)