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ロンドン 童心に帰る枕たたき

2014年06月15日

 少年時代の淡い記憶がよみがえった。目の前の人をボコボコにする。けんかに明け暮れた「不良」だったわけではない。修学旅行の大部屋。布団の上で仲間とじゃれ合ううちに、枕を手にした熱き戦いが始まる。滴る汗と絶叫。騒ぎを聞きつけるまでもなく、お決まりのように現れる夜の見回り教師。多くの人に共通する思い出に違いない。

 ロンドンの観光名所トラファルガー広場で先日、高校生の娘を連れて「ピロー・ファイト」と銘打つイベントに参加した。文字通り「枕たたき大会」だ。見知らぬ者同士が、ひたすら近くの人間とたたき合う。あちこちで枕の羽毛が舞っていた。

 数千人が集う“戦場”に勇んで飛び込んだ。が、45歳の記者は今も昔も「品行方正」。「他人さまをたたくなんて」。思わず腰が引けた瞬間、後ろから「ギャー」の悲鳴。

 見れば、いつもはエリザベス女王の「銅像」と化しているはずの大道芸人が、かわいい娘をめった打ちにしているではないか。「アンタ、動かないのが商売だろ」と笑顔で娘を援護。久々に味わう枕の一撃は実に壮快だった。ストレス社会の日本でもいかがか。 (小杉敏之)