2014年07月13日

　それはありふれた海外向けウクライナ観光案内のビデオ映像のはずだった。ワシントンの繁華街ジョージタウン中心にあるウクライナ大使館。国旗を掲げた大広間に入ると、テレビで繰り返し流しており、つい引き込まれた。

　公園で遊ぶ家族連れの姿などを織り交ぜた首都キエフの日常的な街の風景。レストランやカフェの店主、ホテルのマネジャーらが登場した。

　「ウクライナは四季を通じて美しい国です。温かい心で皆さんを歓迎します」「私たちの国の豊かな歴史や文化を感じてください」「とても平和なウクライナへようこそ！」

　皆が両手でＵの文字をつくって笑顔をみせ、ウクライナの素晴らしさを熱心に訴えている。テレビの横には、丸焦げのビルや騒乱の様子の報道写真が論評抜きで掲示されており、あまりの差に立ちすくんだ。

　四月制作とあるから、ロシアによる武力を背景にしたクリミア半島併合の危機後に発表された映像だ。国の形は強引に変えられてしまった。観光案内の映像は、それが踏みにじったものは何かということも、確かに伝えていた。（斉場保伸）