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北京 苦難の王女が望む夢

2014年07月31日

 生粋の江戸っ子のような王女だった。北京の病院で5月26日、95歳で亡くなった清朝親王の娘、愛新覚羅顕●(けんき)さん。実の姉は「男装の麗人」と呼ばれ、旧日本軍のスパイとして処刑された川島芳子さん(日本名)だ。数奇な運命をたどった苦難の生涯だったが、最後まで明るく豪快に笑っていた。

 学習院、日本女子大で学び、戦前に身に付けた日本語は流ちょうで美しい発音。「私は日中のはざまで生き、日本人と中国人の感情が理解できる」と話し、日中の政治家、指導者を一刀両断。本質を突いた言葉がズバズバと飛び出し、思い出話も愉快だった。

 その王女にも苦しい時代があった。ブルジョア右派に反対する闘争に巻き込まれ、刑務所に15年、強制労働は7年。「共産党に恨みはない。悪いことは何もしてないから精神的には充実していたわ。ただ、日本の友だちに会いたかった」

 「昔のことを掘り返しても仕方ない。もっと民間交流を進め、日中が互いを分かり合える人材を育てることが重要。兄弟げんかをやめ、東洋を治めなければ…」。清朝最後の王女が望み続けた夢だ。(白石徹)

 (注)●はおうへんに奇