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ベルリン 万年「お客」ではダメ

2014年09月01日

 サッカー・ワールドカップ(W杯)ブラジル大会で、ドイツが東西統一後初の優勝を決めた瞬間を、ベルリン・ブランデンブルク門のパブリックビューイング会場で迎えた。これほど大勢のドイツ人がこの場で喜びを分かつのはベルリンの壁が崩れて以来だろうが、体験の質はずいぶん違う。

 25年前の若者は、数時間前まで近づくだけで射殺された壁に上り、ハンマーで冷戦をぶっ壊した。まさに「主役」だった。同じ場所で今の若者は、スポンサーの大企業がしつらえた会場で「お客さん」として映像に声援を送った。社会主義の抑圧に取って代わったのが、資本主義の柔らかな管理だったことを象徴する変化だ。

 以前に本欄で、独政府がW杯の熱狂を利用し、反対が根強いシェールガス採掘を認める可能性があると伝えた。反対の署名集めが起きるなどし、結局、連邦議会は審議を秋以降に持ち越した。有権者が「お客さん」に甘んじていたら強引に結論を出していたかもしれない。

 普通の人が社会で主役を張るのはいつだって難しいが、時には客席から舞台へ上がる必要もあるのだろう。 (宮本隆彦)