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ウクライナ・ハリコフ 尊厳を取り戻す旅路

2014年09月11日

 マレーシア航空機撃墜事件で犠牲になった乗客らの遺体をオランダに送る式典を、ウクライナ東部ハリコフの空港で取材した。あいさつに立ったオランダの大使は数分の短いスピーチの中で「尊厳」という言葉を何度も使った。

 乗客乗員298人は、おそらくは親ロシアの武装集団かロシアの軍人が放ったミサイルで、生命という最高の尊厳を奪われた。落命してなお遺体は粗略に扱われ、持ち物を荒らされる辱めを受けた。遺族には耐え難い苦痛だったに違いない。

 ハリコフの式典ではウクライナの儀仗(ぎじょう)兵が4つの棺(ひつぎ)を丁重に輸送機に積み込んだ。そして空路着いたオランダでは、犠牲者たちはさらに手厚く迎えられた。40の棺すべてが軍人たちによって一つ一つ担ぎ出され、威儀を正した動作で黒塗りの霊きゅう車に乗せられた。身元確認のため移動する車列の行く先には、犠牲者を悼む大勢の人波ができた。

 オランダ大使はハリコフの空港で犠牲者の「故郷への旅がこれから始まる」と語った。それは踏みにじられた尊厳を取り戻すための旅でもあった。

 (宮本隆彦)