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ジャカルタ 時代に乗れぬ「輪タク」

2014年09月24日

 三輪自転車の前に肥満体の男性がゆったり座れるほどの大きさの座席をつけたベチャ。1970年代、ジャカルタで大人気を博した輪タクがいま、激減しているという。

 「バイクや車から『通行のじゃまだ』って言われるんだ」。スラム街のタナティンギ地区で出会った運転手サラムさん(55)はその理由をこう語る。ジャカルタ警視庁も排除の方向だ。

 サラムさんの1日の稼ぎは平均300円、ジャカルタの昼食代程度だ。車は借り物でそこから50円を払う。「だから、近所の人が困ったら大工仕事を手伝ったり、何でも屋と兼業さ」

 座席も破れ、浅草で走っているような観光人力車とは似ても似つかぬ粗末な作り。乗っていると快適だが、横をクラクションを鳴らしながらバイクが通り過ぎる。

 のろいけど、何となく情緒を感じさせる。「たまにはゆっくり走ろうよ」。そんなメッセージが聞こえてきそうだが、渋滞天国ジャカルタでは、老兵は消え去るのみということなのだろう。サラムさんも「長く続けたいかって? 雨の時は大変だし、こんなしんどい仕事、早く辞めたいね」。(伊東誠)