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仏アルゴンヌ 森に残る激戦の記憶

2014年10月02日

 森の奥に続く大人の背丈ほどの深さの溝は、散策路のようにもみえる。だが、片側が不自然に高く、しかも曲がりくねっているから、ハイキング用ではないのがすぐに分かる。

 「敵の弾が飛んでくる方が高くなってます」。第一次世界大戦の激戦地フランス北東部アルゴンヌの森で地元高校教師の歴史研究者フランク・メイエルさん(53)がドイツ軍の塹壕(ざんごう)跡を案内してくれた。

 フランス軍との距離数10メートル。頭を出せば機関銃の餌食になり、壕の中にいても頭上から爆弾が落ちてきた。壕の中は死の恐怖が常にあったという。

 100年前の戦地を訪ね、兵士の遺品を見るたびに、タイムスリップが起きたかのように戦場が思い浮かぶ。鉄かぶとやガスマスクもなく前線に送られた兵士たち。馬や伝書バトも活躍していた。その一方で近代兵器が大量投入された。アルゴンヌでは化学兵器や火炎放射器など。

 爆弾がえぐった深さ10メートル以上の大穴が突然現れる。何人の命を奪ったか。「この悲惨さを地元の生徒に伝えるのが私の役目です」。メイエルさんは言う。森は第1級の教材だ。(野村悦芳)