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ローマ 電話2本 緊迫と安ど

2014年11月06日

 ローマの集合住宅の階下で1人暮らしをする86歳のマリーザが電話してきた。具合が悪いので「救急車をお願い」と言って切れた。家人が飛んで行って118番(イタリアの救急車呼び出し番号)を呼ぶ。

 10分ほどで市内に住む孫娘も駆けつけ、救急隊と一緒に病院へ行くことになった。「入院用品を詰めたスーツケースを持ってちょうだい」と言うマリーザを「救急車に手荷物を持って乗る人はいないわよ」と孫がたしなめた。戸口で見送ると「ちゃんと戸を閉めてね」と家の鍵を託された。

 孫の話では、体調に自信がなくなったマリーザは数日前まで孫の家に身を寄せていたが、日中はみな働きに出掛け、結局1人きりになるので、自分の家に居るのと変わらないと戻ったばかりだった。老いても強い自立心と、見守られていたいという気持ちが交錯するようだ。

 一段落したところへまた電話がかかった。こんどは姑(しゅうとめ)、北伊に住む彼女も92歳の1人暮らし。一瞬身構えたが、ラジオで日本の地震のニュースを聞き、日本で1人暮らしの私の老母を気遣っての電話と分かり、肩の力が抜けた。(佐藤康夫)