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仏ランス 藤田の心宿る礼拝堂

2014年12月07日

 静かにたたずむ小さな礼拝堂。足を踏み入れて、壁一面のフレスコ画に息をのんだ。パリで活躍した洋画家、藤田嗣治が晩年、集大成として取り組んだ礼拝堂を取材で訪れた。

 波乱の人生だった。20世紀初頭にパリに渡り、エコール・ド・パリの画家として活躍。帰国したが、戦時中に描いた絵画が戦争に協力したとして、一転、批判にさらされ、戦後、故郷を去った。晩年には仏国籍を取りキリスト教に改宗した。

 洗礼に立ち会ったシャンパンメーカー社長の依頼で描いたのがかのフレスコ画。建物も自ら設計するなど心血を注いだ。フランス人となった藤田だが日本を忘れることはなかった。その証拠が礼拝堂に残る、戦争の様子が描かれたステンドグラスだ。広島をテーマに惨劇を描いたのだとの説明を受けた。

 礼拝堂の正式名は「シャペル・ノートルダム・ド・ラ・ペ」。「ペ(Paix)」は平和の意だ。戦争に翻弄(ほんろう)されたともいえる人生だったが、心に常にあったのは平和と故郷への強い思いだったのではなかろうか。

 その完成後ほどなく、世を去った藤田。今、夫人と共に、この地に眠っている。(渡辺泰之)