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バンコク 「死体博物館」の2人

2014年12月06日

 プミポン国王も入院したタイのシリラート病院にある博物館は、医学生向けの資料展示が主だったが、一般人も詰め掛け、別名「死体博物館」として知られるようになった。

 古い校舎にある資料室といった趣(おもむき)。破損した肝臓など、順に見ていくと「シーウィー」と書かれたミイラがあった。

 中国から出稼ぎに来たが、ひ弱で言葉の壁もあっていじめられたシーウィー。5人の子を殺害した。その残虐な犯行は社会を恐怖に陥れた。56年前、死刑執行されたが、亡骸(なきがら)の引き取り手がなく、法医学の権威だったニヨムセン博士が「死後こそ人のために役立ってほしい」と展示用に保存した。左胸に2発の貫通痕が鮮明に見える。

 見学に来たプーウィットちゃん(7つ)は最初驚き、母ラワンさん(44)の手を握り締めていたが次第に落ち着いてきた。「命の大切さを学んでほしいと思って連れてきた。ミイラのことも話しました」とラワンさん。

 そばにはニヨムセン博士自身の骨格標本があった。博士も後世に役立ちたいと思ったのだろう。「2人は何を語っているのかな」。そんな思いで2人の間にたたずんだ。(伊東誠)