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ドイツ・ライプチヒ サービス砂漠で救い

2015年02月20日

 家族旅行でドイツ南部へ向かうためライプチヒ近郊のアウトバーンを時速140キロで走っていた。突然「バンッ」という音がして車体が揺れ、何かを引きずるような異音が起きた。高速を降りて見ると、車体の底を覆う樹脂製カバーがめくれて路面に垂れ下がっている。

 金曜日の午後7時。暗い工場や倉庫の中で唯一の明かりを目指した。そこは大型トラックの整備工場。思い切ってノックする。現れたのは30歳前後とおぼしき男性。残業を中断して私の車を導き入れ、割れたカバーを手早く外してくれた。「これで走れるよ」。そう言う彼に謝礼を申し出た。それを受け取る手は油汚れで真っ黒だった。

 この間20分。日本のような整備もできるガソリンスタンドはないし、ロードサービスでの修理なら数時間はかかっただろうから、彼の助けがなければ旅行はあきらめるしかなかった。

 車の分野に限らず、ドイツの日常生活は日本と比べて不便だ。「サービス砂漠」と呼ぶドイツ人もいる。だからこそ、今回受けた親切が、オアシスの水のようにひときわ身に染みた。(宮本隆彦)