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英マンチェスター 悠々と運河は続くよ

2015年03月23日

 同じ島国でも平たんな英国はロンドンを離れると、なだらかな牧草地が延々と続く。マンチェスターからの帰路、車窓からヒツジを眺めていると運河が現れた。「ナローボート」と呼ばれる幅2メートルほどの独特のボートが停泊している。船上生活は年金生活者に人気らしい。

 沿線の運河を見ながら、一昨年夏にロンドンで会った老夫婦を思い出した。当時はキャサリン妃の第1子が生まれる直前。王室の大ファンという老夫婦は「ナローボートを駆ってマンチェスターから2カ月かけて来た」と言っていた。狭い運河は時速が約6キロに制限され、超のんびりとした船旅なのだ。

 妃の入院先近くに停泊中のボートに案内してもらうと、居間や台所、寝室がそろっていた。第2子が誕生する4月にもきっと駆けつけるのだろう。

 物資の運搬手段として産業革命を支え、全土に張り巡らされた運河は、鉄道の登場でいったんは朽ち果てた。しかし20世紀後半のレジャー人気で見直され、往時の姿を残すことに価値を見いだした。蒸気機関車も走らせながら保存するこの国には産業遺産へのこの上ない愛着が感じられる。 (石川保典)