2015年03月26日
近所のスーパーの一角に、カウンターを作りつけた小さな休憩スペースがある。買い物帰り、コーヒーを飲んでいると、隣に座っていたお年寄りの女性が「ちょっと提案があるのだけど」と店員を呼んだ。
カウンターには、宣伝を兼ねて売り物の赤いミニバラが5鉢ほど並んでいた。よく見ると、花や葉がしぼみかけている。
「下から吸水させれば元気になるかもしれない。ポリ袋かコップをちょうだい」。店員から水の入った紙コップを受け取ると、女性は早速バラの救命作業に。鉢から苗を抜き、一つ一つどぼんとコップに浸した。
庭いじりを愛する英国人は、植物を上手に育てる人のことを「緑の指を持つ」と呼ぶ。イングランドの国花にもなっているバラには、特に愛着が深い。売り物でも枯れていくのが見過ごせなかったのだろう。
ロンドンの自宅に庭もベランダもない私は、通勤途中、よそさまの庭先の観察をもっぱら楽しんでいる。最近、ツバキの花が開き始めた。春はもうすぐ。女性のしわくちゃな「緑の指」を思い出しながら、この春、いくつか植木を育ててみようと思った。 (小嶋麻友美)