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パリ 歴史をつくるエース

2015年07月07日

 パリのローランギャロスで行われた全仏オープン準々決勝。センターコートは地元選手への大声援に包まれていた。この圧倒的なアウェーの状況で、錦織圭選手が激闘を繰り広げた。いきなり2セットを失う絶望的な局面から、2セットを奪い返す展開。実に熱い試合だった。

 日本人が全仏でベスト8に進むのは実に82年ぶり。戦前に、その記録を刻んだのが佐藤次郎選手だが、恥ずかしながらその名を知らなかった。

 佐藤選手は1931、33年の全仏でベスト4に進むなど、その時代のトッププレーヤーだった。だが、34年、マラッカ海峡で船上から海に身を投げ、自殺した悲劇の選手でもある。錦織選手がテニスの「歴史」をよみがえらせてくれた。

 惜敗した試合後の会見。球場の雰囲気の影響を聞かれ「気にならなかった。うるさいのは相手も一緒」と言ってのけた。世界の舞台でも、のまれない精神力に感動すら覚えた。

 「歴史をつくることはモチベーション」という若き日本のエース。あの佐藤選手を超える決勝進出、いや、優勝も夢じゃない。今から来年が待ち遠しい。(渡辺泰之)