2015年07月24日
米サウスカロライナ州チャールストンの黒人教会で起きた乱射事件の現場に駆けつけた州知事は言った。「死刑を適用すべきだ」。逮捕された白人の若い男を罰して、秩序を保とうとする権力者の顔だった。
有罪が確定するまでは無罪とみなされるはず。だが、容疑者の刑事手続きを担当した裁判官も「この事件では9人が犠牲になったが、君の家族も犠牲者だ」と強い口調で話しかけた。知事も裁判官も白人だ。
事件は黒人の信徒が集まる教会を狙った憎悪犯罪(ヘイトクライム)といわれている。
知事や裁判官とは対照的に、教会前で取材した黒人信徒らは、怒りや憎しみを表さなかった。その代わりに、抱き合い、輪になって歌い、祈りをささげた。花束に挟まれたカードには犠牲者とともに、容疑者を哀れむ言葉があった。
容疑者に直接、心情を訴える機会を得た犠牲者の遺族さえ、「あなたを許す」「あなたのために祈る」と語りかけた。
許し、慈しむことで癒やしを求める。奴隷制の時代から理不尽さに耐えてきた黒人たちの悲哀が、心に突き刺さった。 (北島忠輔)