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ソウル その日は静かだった

2015年08月05日

 韓国は今年も間もなく8月15日の「光復節」を迎える。「戦後70年」がテーマの企画展をソウルの韓国歴史博物館で見学し、朝鮮半島の「当日」の雰囲気を初めて知った。

 日本国民は、天皇陛下の正午の玉音放送を通じて敗戦を知らされた。植民地だったソウルでも放送されたが、現地の人々の多くは意味をすぐに理解できなかったという。

 韓国のラジオ局のアナウンサーだった男性は回顧録で、15日当日は「ソウルの大通りは普段通りだった」と証言した。その日の夜、玉音放送の内容が韓国語でも繰り返し流され、翌16日になって「国全体が大騒ぎになった」と振り返った。

 終戦時、10代だった男性も、忠清北道(チュンチョンブクド)の故郷の町では「16日午後になって、日本の降伏を知った人々が万歳している姿を見た」と企画展のインタビューに答えている。

 歴史の転換点に生じた「空白の1日」。戦地とも、東京とも異なる空気がソウルに漂っていたということだろうか。70年前の「当日」の静けさは、当時の朝鮮半島の人々が抱いた警戒心と戸惑いの大きさをうかがわせた。 (中村清)