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ソウル 感染拡大 真の責任は

2015年08月17日

 「母と接触して感染した患者は現れていない。母が天国で守ってくれたのだと思う」。中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルスに感染した母親=当時(70)=を亡くした金亨祉(キムヒョンジ)さん(48)は涙をぬぐった。

 母親は6月上旬、介助者として知人に付き添い、ソウル市内の病院を訪れ、感染者と接触した。だが監視対象者から漏れ、発症後の9日間、5カ所以上の病院や薬局を転々。韓国メディアは、この間に5000人以上と接触したと報道した。

 「まるで犯罪者のように報じられた。エレベーターに乗る映像まで放映され、それを見て家族は涙を流した」と金さん。

 母親は6月下旬に死亡。遺族は7月、政府や病院に損害賠償を求める訴訟を起こした。金さんは「政府と病院が初期に情報を公開し、感染管理を適切にしていれば、母も感染しなかったはずだ」と断言する。

 韓国では、大勢に感染させた患者が「スーパー伝播(でんぱ)者」と呼ばれ、ネット上で批判を浴びた。だが、感染を知らなかった患者に罪はない。最初の感染者の入国や感染拡大を防げなかった政府や病院の責任は、想像以上に重い。 (島崎諭生)