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中国・桂林 石積み1159段 「友好亭」 

2015年08月27日

 軽い気持ちで登ったのがまずかった。中国南部、水墨画のような風景で知られる桂林に近い老寨(ラオジャイ)山。麓で旅館を営む林克之さん(69)に30分で登れると聞き一緒に出掛けたのだが、思った以上の勾配だった。日ごろの運動不足もたたって、途中ですっかり息が上がってしまった。

 山道を整備したのは林さん自身だ。バックパッカーのはしりで、ネパールやタイで暮らした林さんが偶然、桂林に立ち寄ったのは1996年。「山頂からの眺めは絶景なのに道がない」と地元の人に聞き、一肌脱いだ。両親の遺産をつぎこみ一段ずつ石を積み上げ、1159段の山道を完成させた。「友好亭」と名付けた頂上の休憩所は、今では観光名所になっている。

 日本に帰るつもりが、地元政府から旅館経営を許可された。地元テレビに取り上げられたことで、董彬才さん(42)と結婚。喜多郎君(9つ)を授かり、地元に根付いた。老寨山には2000回以上登ったが、登る時はいつも、ごみを拾いながらという。

 山頂からの眺めは確かに絶景。しばし疲れを忘れた。劇的な人生はとてもまねできないが、無私の心を少しでも見習わなきゃと思う。 (佐藤大)