2016年01月15日
「このショールは手編みなのに、あの人は『機械織りだろう』って言ったのよ。失礼しちゃうわ」
ワシントンにあるロシア正教会の聖ニコライ大聖堂で開かれたチャリティー・バザー。客の言動に腹を立てた売り子のロシア人女性が、知人にこぼしていた。こんなたわいのない話なのだが、ロシア語は旋律豊かで、聞きほれた。モスクワで暮らしたことのある私には、懐かしい響きだ。
会場ではボルシチはじめロシア料理が供され、民族衣装に身を包んだ若者や子どもによるロシア民謡のアトラクションもあった。陽気な曲に乗って人々は踊りだし、民族楽器のバラライカがもの悲しい曲を奏でると、思わず涙ぐむ人もいた。
情緒豊かなロシア人は米国人を指して「スホイ(乾いたの意味)」と評する。そんな異国の地での生活の中で、教会を訪れて同胞と顔を合わせるのは、潤いになるのだろう。
第1次世界大戦とロシア革命の動乱を逃れてワシントンにたどり着いたロシア人が、1930年に礼拝のため信者の自宅に集った。それがこの教会の由来という。 (青木睦)