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マニラ 日常に溶け込む慰霊

2016年04月01日

 マニラの観光地イントラムロス地区にある「マニラ市街戦記念碑」を訪ねた。第2次大戦末期に日米の戦闘に巻き込まれ、犠牲になったフィリピン人を悼む場所。子どもの死を悲しむ母親らの像を中心に、木々に囲まれた小公園になっている。

 しばらくベンチに座っていると、人が大勢出入りした。欧米やアジアからの観光客もいるがフィリピンの人が多い。

 足早にやってきた60代の男性は3、4輪の白い花を像の前にそっと置いた。「昔のことではあるけど、幼い子まで死んだのは、あまりにかわいそう」。ほとんど毎日、ここを通って花を手向けるという。

 そうかと思えば、学生グループがキャッキャと騒ぎながら像の前で記念撮影。女子学生は供えられていた白い花を髪に挿して、ポーズを取った。木陰では、若い母親たちが歩き始めたばかりの小さな子を連れてきて遊ばせていた。

 世代も意識も違う人たちが、記念碑に集まってくる。そして知らず知らずのうちに戦争の犠牲者に寄り添っているという印象を受けた。こんな場所がある限り、忘れ去られることはないのだろう。 (大橋洋一郎)