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米フリント 水道汚染の街の希望

2016年04月08日

 「自動車の街」と書かれた看板の先にあった住宅街は、よく見ると空き家ばかりだった。水道水汚染が発覚したミシガン州フリント。かつては自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)の工員が多く住んだ一帯は、割れたままの窓ガラスがすさんだ雰囲気を醸し出していた。

 「ドウモ、ドウモ」。自宅に招いてくれたロンダ・ケルソさん(52)の父も元GM従業員。日本の自動車メーカーが米国に攻勢をかけていた1980年代にケルソさんは日本語を学んだ。「使う場面は今日までなかったけどね」とはにかんだ。

 GMがリストラに着手し、工場を次々に転出させたのも、ちょうどそのころ。父は職を失い、市の財政も治安も悪くなるフリントに残った一家の貧しい暮らしが始まった。

 そんな話を聞いていた時、娘のケイリンちゃん(12)が学校から帰ってきた。生まれつき心臓に病のある彼女は「日本で勉強したい。アニメが好き」と無邪気に抱きついてきた。

 水道汚染の影響を受けているのは、街の衰退と運命をともにする貧しい世帯だ。ケイリンちゃんが抱く希望に、救われた気がした。 (北島忠輔)