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カトマンズ 寺院に並んだ体重計

2016年04月14日

 ネパールのカトマンズの寺院を早朝訪れた。参拝の人々が円形の寺院をぐるぐる巡っている。囲むように、多くの店が連なる。敷物を敷いて商品を並べるだけのケースも少なくない。

 香辛料、ジャージー、防寒着、花…。さまざまな物がある中、なぜか、家によくある体重計が並べてある。そばに、とても使えそうにない古い靴用のブラシ。靴を磨いてくれるのか、と聞くと「このブラシは売り物だ。体重計? 売り物じゃない」。

 売り物じゃない体重計がなぜあるのか? 疑問に思っていると、通り掛かった若い男性が体重計に乗った。男性は体重計のメーターをちらりと見て、店番の目や足が不自由なおばあさんに10ルピー(約10円)を渡した。淡々と渡す姿と、笑顔で応えるおばあさん。すごく自然で、さわやかな光景だった。

 そうか。金を恵んであげるのではなく、体重を量ることへの報酬として金を渡したのだ。庶民の間で編み出した生活の知恵なのだろう。早速、私も乗ってみた。さりげなく10ルピー手渡そうとしたが、ただいまダイエット中。メーターの数字を凝視してしまい、渡し忘れてしまいそうに…。 (伊東誠)