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ソウル 事実を疑う声はなし

2016年04月21日

 旧日本軍の慰安婦を扱った映画「鬼郷(キヒャン)」が2月下旬に韓国で封切られ、予想を超すヒットとなっている。

 14歳の少女が朝鮮半島から中国の慰安所に送られ、殴られながら性的暴行を受けるなど、過酷な被害に遭うという筋。旧日本兵が少女を家から強制的に連行し、最後には少女らを並べて射殺するなど、記録や証言には見当たらない描写もある。

 監督は「元慰安婦が描いた絵をもとに製作した」としているが、韓国内の慰安婦に対する固定化されたイメージが、そのまま映像化された印象だった。

 初めは商業性が見込めないと製作費が集まらなかったが、約7万5000人が寄付で支援。経緯が報道されて関心が集まり、上映館数も当初の40倍の約800に増えた。観客に感想を聞くと「戦争の残酷さや国家犯罪を芸術的に描いている」などと称賛一色で、描写が事実かどうかを疑う声はなかった。

 韓国では、昨年末の慰安婦問題に関する日韓合意を評価しない人が過半数。映画を見て「怒りが湧いた」と話す人もいた。劇場を出るときに胸の重苦しさを感じたのは、暗い脚本のせいだけではない。 (島崎諭生)