2016年05月22日
ナイル川の水は、底の岩が目で確認できそうなほど透き通っていた。両岸に木や草が生え、青い空が建物に遮られることなく広がる。カイロのはるか上流に位置するアスワンで小舟に乗った。舟はアスワンの街からさらに川をさかのぼっていく。
「カイロと違ってアスワンのナイルの水は本当に奇麗さ」。ガイドはそう言うと、ナイル川の水をコップに入れて口に運んだ。「素晴らしい味だよ」。そして、再びナイルの水を入れたコップを差し出した。
信頼すべき統計は見当たらないが、複数の邦人との情報交換によれば、エジプトに住む日本人の多くは首都カイロの名を取った「カイロ腹」なる現象を経験する。激しい下痢のことだ。
たいていの場合、原因は不明だ。夜中に始まり朝で終われば幸運。長期戦もあり得る。住み始めは頻度が高く、在住期間が長くなるとめったに襲われなくなる。
常夏の都市といえるアスワンは、その日も暑かった。時折、日の光が直接当たると痛いような感覚になるほど。「アスワン腹」がおおむね終息したのは、それから5日ほど後のことだった。 (中村禎一郎)