2016年06月21日
米国で取材した人の訃報に触れたのは初めてだった。クラレンス・グラハムさん、73歳。サウスカロライナ州ロックヒルで1961年、人種差別に反発して、レストランの白人専用席に座り込み、逮捕された黒人の男性だ。
昨年、当時の有罪判決が54年ぶりに取り消されたというニュースを聞き、取材を申し込んだ。今も営業するレストランで私を出迎えてくれたグラハムさんは言った。「私は英雄なんかじゃない」。うれしそうなそぶりは見せなかった。
再審の法廷で地元の白人議員から投げ付けられた言葉を、グラハムさんは忘れられずにいた。「私は君たちを支持しないし、認めない」
この半世紀、黒人差別は少しずつ改善されていると言われる。だけど、グラハムさんは「公然とそんなことを言う人が議員に選ばれる。これが現実だ」と漏らした。「たとえ世界から暴力がなくなっても、差別はなくならないだろう」
有罪は取り消された。だがグラハムさんから希望を奪った一言は、生涯を閉じるまで心に突き刺さったままだった。 (北島忠輔)