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バチカン 壁画修復に「和」の力

2016年06月26日

 年間600万人が訪れるバチカン美術館。見学順路が7キロに及ぶ館内は、膨大な作品を鑑賞するには1日では足りない。勢い館内最奥に位置し、ミケランジェロなどのフレスコ画があるシスティーナ礼拝堂へと急ぐ。

 しかし、途中通過する幅6メートルほどの廊下にも彫像や壁画があり、慌てて通過するのはもったいない。なかでも16世紀末の教皇領版図が壁面40区画に描かれた120メートルの「地図の廊下」は日本人にも因縁がある。

 壁画の制作を命じた教皇グレゴリオ13世は亡くなる直前の1585年4月、バチカンを訪れた最初の日本人である天正少年使節の4少年を温かく歓待。壁画が完成したばかりの廊下を少年らは老齢の教皇と歩んだことだろう。使節が持参した信長寄贈の屏風(びょうぶ)「安土城之図」が置かれたのもこの廊下だった。

 「廊下」の4年にわたる修復が先日、終わり、1200平方メートルの壁画の汚れや過去の補修が除かれオリジナルな色彩がよみがえった。作業には和紙と日本産のFunoriが大活躍。天然素材の修復材料として評価が高い布のりだが、これだけ広大な壁画修復に活用されたのは初めてだという。 (佐藤康夫)