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ニース 点々と続く花の墓標

2016年09月21日

 地中海のまばゆい太陽が注ぐプロムナード・デ・ザングレ。英国人の遊歩道を意味するニースで有名な海岸沿いの道だ。市民や観光客が散歩やジョギングを楽しむ憩いの場が革命記念日の夜、テロの現場になった。

 テロ後、検証が終わり、開放された現場。歩道上には花やろうそくが手向けられた場所が点々とあった。無造作に置かれているだけだと思った。だが、近寄ってみて意味が分かった。

 花が置かれた所には、血が洗い流されたとみられる跡があった。犠牲者がトラックにはねられ、命を落とした場所だったのだ。だれが描いたのか、その跡がハートの形に囲まれていた。その傍らにかがんで手を合わせた。視線を上げると、点々と続く花の塊が、犠牲者を悼む「墓標」に思えた。

 射殺された実行犯の男は、2キロにわたって幼子からお年寄りまで85人をひき殺した。犠牲者の国籍はさまざまで、イスラム教徒も大勢いた。

 一つ、また一つと、花の「墓標」をたどって歩いた。これからも続くはずだったそれぞれの人生。理不尽なテロに突然断ち切られた無念さを思うと、ただやるせなかった。

 (渡辺泰之)