2016年12月07日
頼まれものの取材はどんな類いであれ渋々、ということが多い。ベルリンでは時折、音楽関係者から「次の日本公演を新聞で紹介してほしい」と頼まれる。「とにかくすごい才能の演奏家だから」と。
すごい才能の人なんて山ほどいるだろうし、公演を宣伝するのは記者の仕事じゃない-。ぶつくさ文句を言いながら、依頼を受けた演奏家のコンビを訪ねてベルリン音大へ向かった。
ルーマニア人の気鋭のチェリストと、日本人のピアニストにひとしきり話を聞き、最後に1曲、日本で演奏する予定の曲を弾いてもらった。
その瞬間、まるで心を縄で縛り付けられたかのようで、あっちこっちへ揺さぶられ、終わった頃には感動のあまりぼう然と立ち尽くしていた。
音楽の都で「すごい才能」と言われる人たちは、私のようなずぶの素人すら魅了してしまう力がある。そのコンビのベルリン公演に、頼まれもしないのに行ってしまったほどだ。
そんな経験が2度あった。次に頼まれたらどうしようかと悩んでいる。役得ととらえるべきか、うまく乗せられているということなのか-。 (垣見洋樹)