2016年12月26日

　中南米ハイチに甚大な被害をもたらしたハリケーン「マシュー」が米東海岸へ北上した１０月上旬、フロリダ州マイアミに入った。地元テレビは特別編成となり、ハリケーンの進路予測などを常時伝えている。キャスターは「不要な外出は避けて」「食料と水の備蓄はありますか」などと繰り返していた。

　マイアミの市街は、さすがに人も車もまばら。ふだんならキューバ系移民のお年寄りらが集まり、ドミノを楽しむ屋外広場「リトル・ハバナ」には誰もいなかった。多くの飲食店は窓枠にアルミの銀板を打ち付けていた。台風前夜の風景はどの国でもさほど変わらない。

　夜、風雨が強まり、街路樹のヤシの木は大きく揺れていた。午後９時ごろに取材を終え「何があっても店を閉じない」と宣伝していたイタリアレストランに行った。閉じていた。それでいいと思う。こうした警戒心があってこそマイアミ市街に特段の被害は出なかったのだ。

　翌朝、道端で６０代の女性２人が雑談していた。「マスコミは大うそつきね。被害なんて何もなかったじゃない」。青空の下、しゃれの通じる平和な日常に戻っていた。　（石川智規）