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アムステルダム 「躓きの石」胸に刻む

2017年03月14日

 今は亡き4人の魂が寄り添うように石畳に刻まれていた。

 オランダの首都アムステルダム。「アンネの日記」で有名なアンネ・フランク一家が身を寄せていた団地を訪ねると、目の前の歩道に彼らが生きた証しを見つけた。

 「躓(つまず)きの石」と呼ばれる10センチ四方の石に張り付けられた真鍮(しんちゅう)製プレート。アンネと姉、両親の名が記された4枚には、ナチスの迫害を逃れるため市内の隠れ家に移った日付やユダヤ人収容所などで命を落とした日付が刻印されている。

 ドイツの芸術家が、歴史の記憶を残そうと、ナチスによる大量虐殺の犠牲者の名前や死亡した年、場所を記す活動として1993年に始め、欧州各地に広まったという。

 団地の脇にはアンネが父に日記を買ってもらった本屋があった。店主のイミンクさんは「この辺りに1万7000人のユダヤ人が住んでいたが、戦後生きて帰ってきたのは4000人だ」と語った。名もなき多くの人々が日の目を見ることなく眠っている。

 「躓きの石」のおかげで、少女アンネの苛烈な体験とともに戦争の不条理な断面が、私の中に刻み込まれた。(垣見洋樹)